今回、私は一つ決めていたことがありました。
それは、やり過ぎない、無理をしないということ。
撮影に入ると、この瞬間はもう二度とはめぐり会えないという思いが強くあって
ずっと撮影をしてしまう傾向がありました。
それは自分の体にもよくないし、何より被写体の人にも負担になります。(今更ですが)
自分の体と心を常にニュートラルに整えて撮影に臨もうと決めていました。
この日、起きた時に背中にとても疲れを感じました。
なので、無理をしないで午前中はゆっくりしてようと思いました。
今回は初めての撮影です。
まずは、信級の人たちと話をして交流をしたいということと、
植野家も、少しずつ家の中や仕事を撮影させてもらい、
そして、田植えが撮れたらいいなあということを考えていました。
そんなことを朝食の時に植野くんたちに話をしました。
そして自分の布団に寝転がっていると、
「ヨーコさーん、イチローさんが来ました!」
とカオリさんの声。
私は玄関の土間に降りていきました。
「今日は天気最高だぞー、鹿谷城跡に行こう!俺が案内するから。」
とイチローさん。
「えー!、イチローさん、三脚を持って行かなくちゃいけないんだよ。
すごく重くて、私、それ持って山登れないから、龍一くんにお願いしようかと思ってたんだよ。」
と私。
「俺が三脚を持つから大丈夫だ!!いいから行こう!」
そんなわけで、せっかく誘いにきてくれて、
70代半ばのイチローさんがあの重たい三脚を持ってくれるというので、
私も疲れたなんて言ってる場合ではなくなりました。
「じゃあ、30分後、8:30にイチローさんちに迎えにいくね。」
急いで撮影の支度をし、機材を車に積み込み出発。
イチローさんをピックアップし、信級小学校の少し上の登り口付近に車を止めました。
三脚はやはりずしりと重い。
「イチローさん、ホントに大丈夫?」
「大丈夫だー!」
と三脚をひょいと担ぎました。
私もキャメラを持ち、スチールキャメラをリュックに入れて、
イチローさんと歩き出しました。
「ここは昔畑だったんだぞ。」
山道の脇の草に覆われたスペースを指してイチローさんが言いました。
「こんな標高の高いところまで、畑にしてたんだ。どれだけここに人が住んでいたかってことだよね。」
昔は信級小学校の付近が信級集落の中心地でした。
そういえば、ここは信級の集落のある二つの谷(本鹿谷と外鹿谷)の真ん中にある峠です。
農協や郵便局もあって、そこにいけば大体なんでもそろったそうです。
山道がだんだん細くなってきます。
右には外鹿谷の集落が見えました。
10分ほど歩くと、左に本鹿谷の集落が見渡せるところに着きました。
素晴らしい眺めでした。真下の岩本は見えないけど、かたつむり食堂のある中村、植野くんの家のある岩下まで見えました。
そこでしばらく撮影をしました。
信級の初撮影はイチローさんの案内で、本鹿谷の信級全景になりました。
イチローさんは、色々説明をしてくれたので、撮影させていただいたのですが、
キャメラを向けるといつものしゃべりでなくなってしましました。
私はちょっと申し訳なく思いました。
そして、さらに5分ほど、少し急で細い道を上がると、鹿谷城跡に着きました。
ここからは、宮平がよく見えました。
鹿谷城は川中島の合戦の73年前、1488年にここで戦いがあったとされています。
しかしよくこんな山深いとろに城を建てたなあと思ってしましました。
531年後に、映画の撮影でここに人が立つなんて、当時の人は想像もしていなかったろうなあ。当たり前だけど。
イチローさんを家に送った後、小学校へ戻りました。
天気がとても良く、風もなかったので、撮影することにしました。
信級の映画はここから始まったんだなあ。
帰り道、関口近夫さんが炭焼き小屋で仕事をしていました。
ご挨拶をしてしばらくおしゃべりしました。
関口さんの独特の語り口、間。
人を惹きつけます。
関口さんの炭仕事を撮影させてもらいたと改めて思うのでした。
植野家に戻ると、植野くんは床の貼り直しの仕事をしていました。
猫のおしっこが染み付いた板を切り取り、新しい板を張っていました。
切り取った板を一箇所に集めていたのですが、そこからものすごい臭いが放たれていました。
植野くんもクラクラしながら作業していました。
この後、田んぼの水が溜まったところから代掻きをするというので、
撮影をすることにしました。
カエルの鳴く声が心地いい田んぼ。
小さなトラクターのような乗り物の後ろに
田んぼの土をひっかく器具を装着。
植野くんはゆっくりと代掻きをしていきます。
引き、ミドル、寄り、フィックス、などなど色々撮りました。
「ああ、イイ感じ♪」と思える撮影がなかなかできませんでした。
今まで4:3の画角で撮っていました。
新しいキャメラは16:9。
この画角に私はなかなか馴染めません。
そんなこんなで、二日目の撮影は無事終わりました。
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